数字をつくる前に、前提を疑う

実務の話 #1 数字をつくる前に、前提を疑う 実務の話

事業収支の相談を受けると、最初に聞くことがある。

「この数字、どこから貰った数字ですか?」

収支表は、きれいに整っていることが多い。
計算も合っている。

それでも、一番あやしいのは、計算ではない。
最初に置いた「前提」だ。

部下の資料に、違和感があった

部下から提出された、収支の資料を確認する。

賃料の設定が、自分の感覚より高めだった。

根拠を聞くと、業者から得た市場の情報だという。
ただ、実際に契約している賃料や条件とは、かけ離れている感じがした。

間違いではない。
でも、そのまま収支に入れる数字ではない。

市場の賃料は、ひとつではない

同じ建物でも、賃料は時期で変わる。

市場が好調で、需要が旺盛な時は、成約賃料は高値が出やすい。
市場が低調で、需要が弱い時は、低い賃料で決まる。

建物による違いもある。
人気のある物件は、高値で決まる。
人気のない物件、問題を抱えた物件は、安値になる。
しかも、敷金やフリーレントなどの緩和条件が、市場に出やすい。

テナントによっても、条件は変わる。
大型テナント、信用度の高いテナント。
新興企業、小規模テナント。

市場の情報や噂話は、どうしても目立つ数字が先に届く。
高値の事例。
極端な募集条件。

収支に必要なのは、そこではない。
「自分たちが、実際に契約できると、根拠を示せる数字」のほうだ。

賃料の額だけでなく、敷金、フリーレントまで含めた、事業を検討する上で守らなければならない条件。

解決のために、2つのこと

① 情報源を、複数持つ

仲介業者の情報は、大事だ。
でも、それだけだと、見える景色が偏る。

仲介業者の情報源を、複数持つ。
その上で、他の窓も開かないといけない。
事務所設計、家具、引越しや移転に関わる業者。
金融関係。
それらを信頼できる、自分のネットワークとして育てる。

ひとつの情報は、噂話で終わる。
別の窓からも、同じ方向が見えて、はじめて情報になる。

ネットワークの情報は、特に重要だ。
急にはつくれない。
だから、平時から育てることを忘れない。

② 誰に出す数字かを見る

資料の提出先は、社内なのか。クライアントなのか。

提出先が「求める数字」がある。
そして、実際に「達成できる数字」がある。

この2つは、同じとは限らない。
肝心なのは、両方を見ること。

求められる数字に合わせて、無理のある賃料を置くと、あとで苦しくなる。
ずれがあるなら、ずれごと見せたほうがいい。

まず疑う、2つの前提

収支表を作る前に、私は次の2つを確認する。

① 賃料と条件
想定賃料は、募集の事例か、実際に決まった賃料か。
いまは好調な市場か、低調な市場か。
自分の建物は、人気のある側か、そうでない側か。
つまり、要求性能を満たしているか。
フリーレントや敷金の条件は、見込んであるか。
空室の期間は、見込んであるか。

② 工期
工期は、引越し稼働までの時間で作る。
契約時に稼働日が決定する。
先方の準備もあり、引き渡し日の変更は、基本できない。

「正しい前提」はない

誤解してほしくないのは、正解の前提がある、という話ではないこと。

未来のことは、誰にもわからない。
だから、前提は、仮のものだ。

大事なのは、
「この前提が外れたら、どうなるか」を、先に見ておくこと。

賃料が下がったら。
工期が延びても、引き渡し日が動かせなかったら。
売却時の市況が思ったより悪かったら。

それでも続けられる事業か。
そこを、見る。

持ち帰ってほしい1点

収支表を見たら、最初にこう聞いてみてほしい。

「この前提が外れたら、どうなりますか?」

答えに詰まる前提が、いちばん、疑うべき前提だ。

部下の資料に感じた違和感は、結局、これだった。
その数字は、実際に契約できる賃料なのか。

数字をつくる前に、前提を疑う。
地味だが、効く。
ここだけは、譲れないと思っている。


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